
インバウンド観光客とは?最新動向と経済効果・成功事例・デジタルクーポンを活用した集客戦略
訪日外国人観光客は年々増加し、2024年には過去最高の約3,687万人を記録しました。インバウンド消費額は8.1兆円に達し、日本経済を支える重要な柱となっています。円安効果や世界的な日本ブームを背景に、観光・小売・飲食業界では訪日客を取り込む施策が不可欠となっています。本記事では、インバウンド観光客の最新動向から、地域経済への影響、成功事例、そしてデジタルクーポンを活用した効果的な集客戦略まで、データに基づいて解説します。
目次[非表示]
インバウンド観光客とは?定義と市場の最新動向
インバウンド観光客(訪日外国人観光客)の動向を正確に把握することは、効果的な施策立案の第一歩となります。ここでは、最新の統計データに基づき、市場の現状と主要訪日国・地域の特徴を解説します。
インバウンド旅行者の特徴・主要訪日国・地域別の特徴とトレンド
2024年の訪日外国人数は約3,687万人に達し、コロナ禍前の2019年(約3,188万人)を大きく上回り、過去最高を更新しました。この背景には、円安による日本旅行の割安感や、コロナ禍からの旅行需要の回復が影響しています。
主要訪日国・地域の上位5か国は、韓国(約882万人)、中国(約698万人)、台湾(約604万人)、米国(約272万人)、香港(約268万人)となっています。東アジアからの訪日客が全体の約7割を占める一方、欧米豪からの訪日客も大幅に増加しており、市場の多様化が進んでいます。
国・地域別の特徴として、東アジア圏(中国・台湾・香港)では買い物代の比率が高く、特に中国からの訪日客の1人当たり買い物代は12.9万円と突出しています。一方、欧米豪からの訪日客は、1人当たり旅行支出が35万円から40万円と高額で、体験型観光や長期滞在を好む傾向があります。2024年のデータでは、イギリスが38.3万円で最も高く、次いでオーストラリアが38.2万円、スペインが37.0万円と、欧米豪からの訪日客の高い消費単価が確認されました。
台湾からの訪日客はリピーター率が約80%と非常に高く、地方への訪問率も高いという特徴があります。韓国からの訪日客は滞在日数が比較的短く、気軽に訪日できる近隣国としての位置づけが明確です。
インバウンド観光が地域経済に与える影響
訪日外国人観光客の増加は、地域経済に多大な影響を与えています。直接的な消費効果だけでなく、雇用創出や地域活性化など、多面的な経済波及効果をもたらしています。
観光・小売・飲食業への経済波及効果
2024年の訪日外国人旅行消費額は約8.1兆円に達し、前年の5.3兆円から約1.5倍の成長を記録しました。この消費額は、日本国内のアパレル業界の市場規模に匹敵する規模です。2023年の実質GDPを0.7%押し上げたとの試算もあり、インバウンド消費は日本経済を支える重要な柱となっています。
費目別の消費内訳を見ると、宿泊費が約2.7兆円(構成比33.6%)と最も多く、2019年比で93.6%増加しました。買い物代は約2.3兆円(同29.5%)、飲食費は約1.7兆円(同21.5%)となっており、これら3つの費目で消費額全体の約85%を占めています。
特に宿泊業における影響は顕著で、都市部のホテル宿泊費は前年比で大幅な上昇を記録しました。総務省の消費者物価統計では、2023年10月から12月にかけて宿泊料が前年比40%から60%以上上昇するなど、訪日客需要の高まりが価格に反映されています。訪日客のシェアは2023年に45.6%に達し、宿泊施設の収益を大きく押し上げています。飲食業においても、訪日外国人による消費は約1兆7,460億円に上り、全体の約21.5%を占める重要な収益源となっています。
観光産業における雇用効果も大きく、世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の2023年予測によると、日本国内で約560万人の雇用が観光関連産業に関連しており、2033年までには670万人に増加すると見込まれています。訪日客の増加に伴い、宿泊施設やレストラン、土産物店、交通機関など、幅広い業種で新たな雇用機会が生まれています。
地方経済への波及効果も注目されています。政府は地方誘客を推進していますが、大都市圏への集中が続いており、地方部への宿泊数拡大が課題となっています。一方で、愛知県、広島県、石川県、熊本県、長野県など、従来の主要観光地以外の地域でも宿泊者数が増加しており、インバウンド需要の地方への拡大が徐々に進んでいます。
インバウンド観光客を取り込むビジネス成功事例

実際の成功事例から学ぶことで、効果的なインバウンド施策のヒントを得ることができます。ここでは、地方自治体、商業施設、飲食店での具体的な取り組みを紹介します。
地方自治体・観光地での集客成功事例
山口県宇部市では、訪日外国人を対象とした「宇部市インバウンドデジタルクーポン事業」を実施しました。市内の宿泊施設に宿泊した外国人旅行者に対し、現地の飲食店や小売店で利用できる電子クーポンを付与する仕組みで、地域内での消費促進と滞在時間の延長を実現しました。デジタルクーポンの利用により、訪日客の動線や消費行動のデータも収集でき、今後の施策立案にも活用されています。
北九州市では、訪日外国人向けにアンケート回答者限定のデジタルクーポンを配布し、観光客の声を収集しながら地域の魅力を発信する取り組みを実施しました。このような双方向のコミュニケーションにより、訪日客のニーズをより深く理解し、サービス改善につなげることができました。
神奈川県藤沢市では、公益社団法人藤沢市観光協会が主導し、地域の観光資源を活かしたデジタルクーポンキャンペーンを展開しました。地元の飲食店や小売店と連携することで、地域全体でインバウンド需要を取り込む体制を構築しています。
商業施設・飲食チェーンでの販促事例
大手家電量販店のヤマダ電機では、訪日外国人観光客向けの購買促進を目的に、多言語対応のデジタルクーポン一括掲載サービスを導入しました。これまでアプローチできていなかった国・地域の旅行者にも訴求でき、低リスクで効果的なインバウンドプロモーションを実現しています。クーポンは複数のOTA(オンライン旅行代理店)やSNSプラットフォームで配信され、幅広い訪日客への認知拡大に成功しました。
京都で「和牛すき焼き 京都力山」「京都とんかつ かつ田」などを展開する株式会社力は宿るでは、中国最大級の口コミサイト「大衆点評」や「小紅書(RED)」を活用したオンラインでの認知拡大と、オフラインでの口コミ促進を両立しています。春節や夏休みなどの旅行ピークに合わせた広告出稿により、新規出店でも来店客比率が中華圏で7~9割に達し、1年で月商2倍成長を実現しました。
東武百貨店池袋店では、定期的な情報発信強化により中国人観光客の来店数を拡大しました。特に免税カウンターの充実と、中国人スタッフの配置により、言語の壁を解消し、スムーズな購買体験を提供しています。
札幌のラーメン店「すみれ」では、英語・中国語対応の自動翻訳機を導入し、ベジタリアン向けのラーメンを提供開始しました。その結果、口コミサイトで高評価を獲得し、外国人観光客が急増。売上が30%以上増加しました。
効果的なインバウンドマーケティング戦略とは

訪日外国人観光客を効果的に集客するためには、各国・地域の特性を理解し、それぞれのニーズに合わせた戦略を設計することが重要です。
国・地域ごとの嗜好を踏まえた戦略設計
国・地域別の消費行動を理解することは、効果的なマーケティング戦略の基盤となります。観光庁の訪日外国人消費動向調査によると、国・地域ごとに明確な嗜好の違いが見られます。
東アジア圏(中国・台湾・韓国・香港)の訪日客は、ショッピングと食事を重視する傾向があります。特に中国からの訪日客は、化粧品、家電製品、ブランド品などの買い物に高額を支出します。一方、和食や地域の特産品にも強い関心があり、飲食店での消費も活発です。
欧米豪からの訪日客は、「モノ消費」よりも「コト消費」を重視し、体験型観光に高い関心を示します。娯楽サービス費は2019年比で2.04倍に増加しており、美術館、博物館、テーマパーク、伝統工芸体験などへの支出が増えています。また、長期滞在の傾向があり、平均宿泊数は10日以上となることも珍しくありません。
東南アジア(タイ・シンガポール・マレーシア)からの訪日客は、SNSでの情報発信に積極的で、インスタ映えするスポットや体験を求める傾向があります。ハラール食への対応など、宗教的配慮も重要なポイントとなります。
これらの特性を踏まえ、ターゲットとする国・地域に合わせて、プロモーション内容、提供サービス、価格設定を最適化することが成功の鍵となります。多言語対応のウェブサイトやSNSアカウント、決済方法の多様化(Alipay、WeChat Payなど)、食事メニューの多言語化と写真掲載なども、基本的かつ重要な施策です。
デジタルクーポンを活用した集客・販促施策
デジタル技術の発展により、訪日外国人観光客へのアプローチ方法も大きく変化しています。デジタルクーポン市場は拡大を続けており、2023年の法人ギフト市場は2兆4,900億円に達しました。インバウンド需要の増加と大手企業の活用増加により、2025年はさらなる市場拡大が見込まれています。
インバウンド向けデジタルクーポンの特徴と強み
インバウンド向けデジタルクーポンは、訪日外国人観光客の利便性を高めながら、地域経済の活性化を実現する効果的なツールです。東京都の銭湯利用促進事業「WELCOME!SENTOキャンペーン」では、SBギフトの地域活性化クーポンが4年連続で採用され、インバウンドを中心とした観光客向けにデジタルクーポンを配布することで、東京のユニークな文化体験を促進しています。
デジタルクーポンの主な特徴として、利用店舗側で専用端末を導入する必要がなく、スマートフォン画面上で店舗コードを入力するだけで簡単に利用認証が完了する点が挙げられます。アプリインストールも不要で、訪日外国人は自分で表示言語を選択でき、英語、中国語、韓国語など主要言語に対応しています。これにより、言語の壁を解消し、対応スタッフの負担も軽減できます。
リアルタイムで利用状況をデータ化できるため、施策効果の測定や次のマーケティング活動への活用が可能です。どの店舗で・いつ・どのくらい利用されたかのデータを収集し、訪日客の動線や消費傾向を把握することで、今後の施策立案に役立てることができます。また、サーバー側での認証により不正利用を防止し、キャンペーンの公正な運営を支援します。
JCBの活用事例では、デジタルクーポンを導入したキャンペーンにおいて、実施期間1カ月間の一人当たりの月間決済額が1.2万円アップ、リードタイムを2カ月短縮、業務工数1.5人月削減という具体的な成果が報告されています。複数のギフトから自由に選べる体験により、利用者の満足度向上も実現しました。
実際の活用シーンとしては、宿泊施設でのチェックイン時や観光案内所、駅、空港などでデジタルクーポンを配布し、滞在中に地域の飲食店や土産物店で利用してもらうケースが一般的です。宿泊施設でシリアルコードを配布し、訪日客がスマートフォンで登録するだけで利用開始でき、パスポート番号との紐付けにより重複利用を防止する仕組みも構築できます。
デジタルクーポンは、割引率や割引額、利用可能店舗、利用期間などを柔軟に設定でき、店舗別のクーポンや1円単位で利用できるプレミアム商品券タイプなど、目的に応じた様々な形式に対応可能です。地域の飲食店や小売店で利用できるクーポンを配布することで、訪日客の消費を地域内に誘導し、大型商業施設だけでなく地元の中小店舗でも訪日客を取り込むことができます。
訪日外国人が旅行前に役立った情報源として最も多かったのはSNSで39.1%を占めており、デジタルクーポンもSNSやOTA(オンライン旅行代理店)と連携して配信することで、旅マエ(訪日前)からのアプローチも可能です。インバウンド対策においてデジタルクーポンは、訪日客の利便性向上、地域経済の活性化、データに基づく施策改善という3つの効果を同時に実現できる、非常に有効なツールと言えます。






