キリンビールの仕掛け人が語る、 ソーシャルメディアと
店舗連携が実現した新時代のギフト提案

更新⽇:2021年4⽉8⽇(⽊)
キリンビール株式会社様
日本を代表する酒造会社 キリンビール。同社が新開発した「GRAND KIRIN(グランドキリン)」は、これまでのビールとは一線を画す新しいビールとして、商品企画や商品開発はもちろん、その販売手法や顧客とのコミュニケーションのあり方まで、従来とは異なる取り組みで販売された戦略商品だ。2012年から行われたソーシャルメディアとセブン-イレブン店舗を連動したGRAND KIRINのセールスキャンペーン「BEER to friends」は、その後予期せぬ効果も生んでいるとキリンビールの山口洋平氏は語る。山口氏にGRAND KIRINの商品企画の意図や背景、そしてそれによってもたらされた効果について話を聞いた。 (当記事はWeb『ビジネス+IT』に掲載されたものを転載しています。)

新しいビール市場を創る!一線を画する商品づくりへ

日本を代表する酒造会社 キリンビール。「キリンラガー」や「一番搾り」「のどごし<生>」などは、日本人なら誰もが知っている身近なブランドだろう。さらに最近は、マイナス5℃のフローズンの泡が話題となった「一番搾りフローズン生」など、ビールの新しい楽しみ方も提案している。

こうした中、約3年前に開発をスタートした「GRAND KIRIN(グランドキリン)」は、製法からデザインまで、新しいチャレンジが詰め込まれた、これまでのビールとは一線を画す新しいビールだ。GRAND KIRINの特徴について、山口氏は次のように説明する。

「GRAND KIRINは、より特別感のあるビールとして開発した商品です。我々はスペシャリティ・プレミアビールと呼んでいますが、従来のように食事の脇役ではなく、ビールそのものを主役として、時間をかけて味わっていただけるよう、非常に手間のかかる製法で造りました。実際に飲んでいただけると、その重厚な味わいに驚かれると思います。」

ビールの味を開発した醸造家に言わせると、1時間ぐらいかけてじっくり飲んで欲しいビールだという。

その1本のビールをしっかりと味わってもらうため、そしてプレミアム感をわかりやすく体現するために採用されたのが、その特徴的なボトルだ。
「通常のビールでは考えられないことですが、わざと口を広くして、飲んだときに香りが広がるようにしました。これもじっくり飲んでもらえるビールだからこそです。また、口あたりを考えて缶ではなく、瓶にこだわりました。一方で、今回はセブン-イレブンで先行発売しましたが、通常コンビニでは高さが長いものは下のほうに埋没してしまいます。そこでGRAND KIRINでは、瓶の高さと幅を500ml缶と同じにしました。並べやすくするとともに、お客さまにすぐに見つけていただけるように工夫しています。非常に重厚感のあるデザインですが、重さは一般的な瓶よりも4割くらい軽くなっています。」

通常、プレミアムビールといえば、一般のビールよりも年齢層が高い消費者が支持する。一方でGRAND KIRINを支持しているのは圧倒的に20代から30代が多い。これも山口氏は狙い通りだったと説明する。

「現在のプレミアムビール市場は、比較的年齢層の高い方が支持しています。一方で、20代や30代の若者もプレミアムビールを飲みたいとは思っているのですが、悪く言うとオヤジっぽいといった印象を持っています。それに対して海外ビールなどはカッコイイというイメージを持っているのですが、面白いのは、海外ビールはカッコイイのだけど、味については国産ビールの方が安心感が高い。海外ビールのかっこよさは瓶の色やラベルにあり、そうしたかっこよさとナショナルメーカーとしての安心感をGRAND KIRINのボトルのデザインに込めたのです。」
セブン‐イレブンで先行展開したのも、こうした若年層のターゲットを意識したからだった。独身の男性で、しっかりと仕事をしているビジネスマンが仕事帰りに立ち寄るのはコンビニだろう。キリンだけでなく、セブン-イレブン側でも、コンビニで付加価値の高い商品を売っていきたいという思いを持っており、両社の思いが一致した結果先行展開となったのだという。

「実は、GRAND KIRINのプロジェクトに対しては、製品そのものはもちろん、プロモーションも含めて『すべて新しいことにチャレンジする』というのがテーマでした。そのため、新しいビールのカテゴリーを引っ張っていく思いで商品を企画しましたし、プロモーションも新しいビジネスモデルを作るくらいの意気込みで取り組みました。その結果、生まれたのが、『BEER to friends』というキャンペーンでした。」

ソーシャルメディアとリアル店舗の融合がもたらしたもの

GRAND KIRINのキャンペーン「BEER to friends」は、簡単にいうと、Facebookの友達やTwitterのフォロワーに、GRAND KIRINをギフトとして贈ることのできるキャンペーンである。
仕組みはこうだ。まず、FacebookやTwitter上で友達を選んだら、メッセージを入力し、受取確認を送信する。相手が受取を了承すると、友達宛にGRAND KIRINの引換チケットのURLが送られる。あとは、全国のセブン-イレブンの店頭において、携帯電話やスマートフォンでそのURLにアクセスしたあとに表示されるバーコードを見せて、GRAND KIRINを受け取る。キャンペーンでは抽選で無料で贈れるほか、カード決済で確実に贈ることも可能にした。

「いろいろアイデアを練っていたとき、『プレミアムビールはギフトに最適では?』という意見が出ました。確かにビールのギフトは一般的ですが、年輩の人が年輩の人にのし紙を付けて贈るもの、というイメージがあります。それはそれで素晴らしい文化ですが、これからの時代に合わせてギフトも進化させれば、ビールに対する見方も変わってくるのではないかと考えました。そこで、調査していたら、SBギフトさんの『ポチッとギフト』というサービスを見つけ、『この仕組みを使えば、ビールギフトのモデルを刷新できるかもしれない』と思ったのです。」(山口氏)
SBギフトの「ポチッとギフト」とは、メールやソーシャルメディアのダイレクトメッセージなどのメッセージでギフトを贈るサービスだ。Web上で商品を購入したら、贈りたい相手にメッセージを送信する。その中にはURLが書かれていて、アクセスすると引換券(バーコード)が表示され、それをセブン-イレブンの店頭で見せると、商品を受け取ることができる。100円単位の商品でも送料がかからず気軽に贈れることが特長だ。
「Facebookが話題になりはじめたころ、アメリカのFacebook上で花をプレゼントできるサービスを見かけたことがあり、これと同じことをビールで実現できたら面白そうだと思っていました。また、GRNAD KIRINは、20-30代の男性に飲んでいただきたい商品なので、その世代に浸透しつつあるFacebookとTwitterを活用してみよう、ということになったのです。さらに、FacebookとTwitterなら、相手のメールアドレスを入力しなくてもよいので、贈る仕組みとしても手軽だと考えました。こだわったのは、相手の顔やアイコンを見て贈れるようにしたことです。直観的でわかりやすくするためです。」

その成果は、予想以上に大きかった。まず、情報拡散力という点では、Facebook上での露出力、Twitterでの発言量ともに良好な結果が得られた。特にFacebookに関しては、Facebook側の担当者が「Facebookを活用したこれまでの国内キャンペーンの中で、最も大きい成果が得られた成功事例」と高く評価するほどだった。

「またこれは当初、まったく想定していなかったのですが、ブランドとしてお客さまと非常にいい出会い方ができたと感じています。というのも、最初の接点として『BEER to friends』で贈ったり贈られたりという特別な体験がベースにあり、単純に店頭で買ったり、懸賞サイトで当たったりしたのとは異なり、『誰々さんからもらったビール』『誰々さんに贈ったビール』という関係性ができていたのです。同じビールに出会うのでも、量販店の店頭よりも、たとえばロンドンのパブで出会った方が印象はよいでしょう。それと似たことが、GRNAD KIRINでは少し起きたのではないかと思っています。」

「パーソナルギフト」の持つパワー

この「BEER to friends」を支えたSBギフトの「ポチッとギフト」の役割について、山口氏は次のように評価する。

「確実にいえることは、SBギフトさんのサービスがなかったら、『BEER to friends』は実現できなかったということです。電子的にギフトを送って店頭で引き換えるという仕組みは、我々だけでは到底構築できません。セブン-イレブンさんの全国の店舗数と店頭でのオペレーションにによって実現できた販売促進と言えます。新しい価値の商品を、まさに新しい仕組みによって広げることができました。」

さらに山口氏は「ポチッとギフト」を初めて利用したときの体験を振り返り、そのときの印象を次のように語った。

「『ポチッとギフト』を実際に試してみて、『オフィシャルギフト』に対する『パーソナルギフト』というものがあるのだと気づきました。普通、ギフトというと最低でも数千円の商品をイメージしますが、『ポチッとギフト』を使うと、数百円の商品でもギフトとして贈れます。そこで私も、『ポチッとギフト』を使って同僚にお菓子を贈ってみたのですが、ものすごく喜ばれて、私自身がびっくりしました。この体験から、デジタルをうまく活用すれば、こうしたカジュアルなギフトというものが成立するんだと実感できたのです。」

今回の「BEER to friends」キャンペーンは、キリンにとっても新しい試みであり、その成果は当初の予想を超えるものだった。ただし、キャンペーンを通してずっとコミュニケーションを続けてきた山口氏には反省点や課題も見えてきたという。

「やはり、いかにユーザーを飽きさせないかが課題です。たとえばFacebookであれば、その月の誕生日の人に贈ったり、自分の投稿に対して一ヶ月以内に100以上『いいね』してくれた人に贈るなど、デジタルならではのフィルターをかけて贈り先を変えたり、贈るタイミングを変えたりすることを実施しています。Twitterであれば、自分に対して『おつかれさま』とか『がんばれ』といった言葉を投げかけてくれた人に贈るのもひとつのアイデアですね。このように、モノを贈るモチベーションを、手を変え品を変えて提案していくことが重要になると考えています。」

また、旧来のメディアとソーシャルメディアとの違い、ソーシャルメディア特有の困難さについても、次のように指摘する。

「今回、FacebookやTwitterを使わせていただいて、難しさも感じました。たとえば、自分のコミュニティに土足で入ってこられたら、とても嫌ですよね。ときどき、企業目線の投稿を見かけることがありますが、それによって、その企業が一気に嫌われてしまうことも十分ありえると感じました。従来のオールドメディアであれば、企業が言いたいことを言うのは当たり前ですが、ソーシャルメディアではそうではありません。言葉の使い方ひとつとっても、とても難しいと思います。つねにお客様の目線で判断していく必要性を感じました。」

キャンペーン展開

「BEER to friends」キャンペーンは、キリン社内でも高く評価されている。実際にGRNAD KIRINは、商品やマーケティング施策を含めて「キリンビール大賞」という賞(社長賞)を受賞している。また、2012年度のグッドデザイン賞を受賞し、広告関連のメディアでも取り上げられた。こうした中、山口氏は、次なる展開について抱負を語る。

「まだ何も決まっていないので、私の空想ということになりますが、グループ会社を見渡せば、付加価値の高い商品がまだまだたくさんあります。まずはこうした商品に対して『BEER to friends』のような施策を横展開することは可能だと思います。また、飲食店と直接つながって、時間をプレゼントするような施策もできたら面白いですね。」

最後に山口氏は、今回のキャンペーンを通じて、匿名性の高いTwitter、オフィシャルの要素が強いFacebookという、ソーシャルメディア間の違いも感じたという。

「日本人の国民性もあると思うのですが、個人的にFacebookで『BEER to friends』を使ってGRNAD KIRINを大勢の人に贈っていると、だれに贈っているのか、どのぐらい贈っているのかが見られていそうで、それがちょっと気になりました。私自身、このキャンペーンで贈りまくっていましたからね(笑)。一方、Twitterは匿名性が高いので、もっと気軽に贈れる気がします。その意味では、Facebookは、我々が当初考えていた以上にオフィシャルなメディアになりつつあるのかもしれません。
ただ、今後は日本人の精神性にマッチした新しいSNSが登場してくる可能性もありますので、我々としては、こうした環境変化に対応しながら、お客さまにとって何がベストなのかを、その都度、判断していくしかないだろうと考えています。」
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