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「やらない理由はない!」 モバイル活用で収益向上、これが新時代の顧客コミュニケーション
「やらない理由はない!」 モバイル活用で収益向上、これが新時代の顧客コミュニケーション
更新⽇:2021年4⽉8⽇(⽊)
夏野剛氏×藤平大輔氏 対談
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今や企業にとって、顧客とのコミュニケーションに携帯電話やスマートフォンといったモバイル環境は無視できない存在になりつつある。ソーシャルメディアのマーケティング利用も進む中、モバイル環境を通じて企業はどのように収益や顧客ロイヤリティを高めていくことができるか。今回は、日本の携帯電話の高機能化を牽引してきた慶應技術大学大学院 政策メディア研究科 特別招聘教授 夏野剛氏と、電子ギフトという新しいモバイルマーケティングサービスを切り拓いているSBギフト 取締役 COO 藤平大輔氏の対談からその取り組みの方向性、未来像を探っていく。
※本記事は2011年にビジネス+ITに掲載されたものを特別に転載しております。
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世界最先端を走る日本のモバイル・マーケティング
──企業において、携帯電話やスマートフォンをマーケティングに活用するケースが増えています。この動きをどうご覧になっていますか。
【夏野氏】
日本の場合は携帯電話の普及が非常に早く、インターネットへの接続も2000年代の前半には、ほぼ全ユーザーに普及しました。マーケティングや広告というのはこうした端末が普及した後に展開されるものですが、それでも日本では2005年ごろから携帯電話がマーケティングに活用されはじめており、今でも間違いなく世界最先端を走っていると思います。
加えていえば、QRコードやおサイフケータイが世界で最初に搭載されたのも日本の携帯電話で、リアルとバーチャルの連動という点でも、日本は世界のベンチマークになっています。実はQRコードも私が最初に導入したんですが、これはおサイフケータイと同じぐらいインパクトがありました。携帯電話のカメラで読み取ったバーコードをサーバに送る。ユーザーのリアルな動きがクラウド上に上げられるようになって、ユーザーがいつ、どこで、何をしているかがわかるようになったんです。
【藤平氏】
当社もまさにリアルとバーチャルの連動を志向して立ち上がったのですが、最初は苦労しました。当社は携帯電話やスマートフォンを利用した「電子ギフト」や「モバイルクーポンシステム」を提供しています。これは、贈り主がSBギフトのサイト内で商品を購入し、贈りたい人にメールを送れば、贈られた人がメールに記載されているURLからサイトにアクセスし、セブン‐イレブンさんなどSBギフトの提携店舗や指定した届け先で商品を受け取ることができるという仕組みです。
実現する機能的なイメージは早くから完成していたものの、ここにきてようやく、ユーザーおよび店舗側のリテラシー、携帯電話普及の高まりを受けて、実際に使えるツールとして認識されはじめ、商談に伺って意思疎通ができるようになってきた、と感じています。
課題は、センターシステムの柔軟性、採用する技術の選択にあり
──リアルとバーチャルの連動の重要性は浸透してきていますが、あらゆる企業でそうしたマーケティング活動が行われ始めたかというと、そうでもないようですね。
【夏野氏】
日本は、パパママショップと呼ばれる非常に小さな小売店が、全体の80%を超えているので、そちらでの導入が遅れるのはしかたがないことだと思います。ただ、大規模小売店、量販店、コンビニエンスストアなどでは、ほとんど電子マネーが使えるようになりました。これなども世界的に見れば奇跡に近いことです。硬貨(1円~500円)の流通量はここ数年減少傾向にある一方で、電子マネーの利用は増えています。小規模な小売店でも、時間はかかるけれども早晩普及するでしょう。
──普及に課題があるとすれば、それは何でしょうか。
【夏野氏】
日本の場合、POSレジシステムのコストが世界標準から比べると少し割高だと思います。また、POSレジシステムにカスタマイズを加えて、インターネット上にデータをセキュアに外出ししたり、そうしたデータを使ってサービスを複合化するといったことに、小売企業自体がまだ慣れていません。いろいろな試みが行われてはいますが、まだまだ端緒につき始めたばかりといえるでしょうね。
【藤平氏】
確かに、最初に提携させていただいたセブン‐イレブンさんの例でも、POSレジシステムとの連携に時間がかかりました。最終的に実現できたのは、データの媒体として技術的には非常に簡単な一次元バーコードを採用し、データの読み取りにすでにPOSレジシステムに導入されているバーコードスキャナを使ったからです。これによって導入するコストを非常に低く抑えることができました。約13,000に及ぶ全国のセブン‐イレブン店舗に新しい端末を新規導入する必要がまったくなかったのです。
もう1つ課題として考えられるのは、POSレジシステムのネットワーク環境です。日本の場合は、意外なことにまだまだ常時接続ではないんですね。この点では、韓国や台湾など他のアジアの方が進んでいると思います。しかし、最近ではコストパフォーマンスの高い常時接続環境が整備され始めているので、これからが本当の普及期なのではないかと考えています。
──携帯電話やスマートフォン側にも普及を阻む要素がありますか。
【夏野氏】
スマートフォンの台頭により、回線のスピード的には速くなっているものの、技術的には少し退化しているのではないかと思います。画面サイズが大きくなって、画面表示能力が向上した分だけ、機能が削られています。バーコードの読み取りぐらいはできますが、おサイフケータイ機能は載っていないものが主流ですよね。そういう意味では、マーケティングサービスを実現する際には、よりユニバーサルなインタフェースを選ばなければいけません。技術の進化に頼るのではなく、多くの端末で利用できるインフラを整備することが重要です。
ただ、日本のメーカーから発売されるスマートフォンにはおサイフケータイ機能も搭載され始めていますし、“ガラケー”と呼ばれる日本の携帯電話も日々進化しているので、数年後にはスマートフォン、ガラケーといった言葉は死語になって、その境目はわからなくなると思います。確実なことは、多くのユーザーが多機能な携帯電話を持つということで、これを想定しつつ、リアルとバーチャルの融合を進めていくのが肝要だと思います。
導入の敷居が低くて、得られるものが大、やらない理由はない
──効果がこれだけ明らかになってきても、依然としてモバイル活用に保守的な経営者も多くいます。
【夏野氏】
とにかくまずは一歩を踏み出すべきだと思います。商品価格の何割かは、お客さまとのコミュニケーション、つまりPRのための費用が入っています。これは、ITの活用によって割合を減らすことができます。しかも、携帯電話やスマートフォンはすでにユーザーに普及して、必要としている人に必要とされているものを届ける、ワントゥワンマーケティングのためのコストが非常に低くて済む。企業にとっては、利益率が高くなりますし、自社への顧客のロイヤリティを高めることができます。お客さまにとっても、より安い価格で商品やサービスを受けられる。本当にやらない理由がない、というぐらいです。
──モバイルマーケティングで注目されている企業はありますか。
【夏野氏】
これは何といっても日本マクドナルドさんでしょう。すでに2000万人以上が同社のクーポン会員で、そのうち50%がおサイフケータイを使っています。代金の電子決済と同時に電子クーポンを受け取り、電子クーポンを使用するのと同時に電子決済を行うというオペレーションが、日常的に行われています。世界に冠たるすばらしい事例です。以前、同社はそういったクーポン類は紙で大量に印刷して、チラシに入れたり、店頭で配布していたんですね。それを電子化することでコスト削減にも寄与したはずです。
【藤平氏】
まさにそこなんです。費用対効果という点で電子クーポンは非常に大きなメリットがあります。紙でクーポンを作るコストは結構高くついて、しかも、紙のクーポンは100%回収不可能で、誰が使ったかといった詳細はわかりません。それ自体が集客ツールになるということはありますが、クーポンがどう使われたかという分析がまったくできないんですね。日本マクドナルドさんの携帯電話のクーポン活用事例は、全体戦略の中の一部として非常に機能していると思います。ただクーポンを配りさえばいいという考え方だと、お客さまは増えるかもしれませんが、客単価が下がって、最終的な企業収益は落ちるということになりかねません。
【夏野氏】
顧客の行動というのは、今まで意外に取れていなかったんですよね。それが、携帯電話やスマートフォンの電子クーポンを使えば、何歳ぐらいの人がどういう商品を買って、どういうクーポンにひびくかということが、リアルタイムにどんどん入ってくる。トラッキングできるわけです。1人のお客さまに着目して、どういうものを何回いつ買っているかということもわかる。こういうデータって絶対に役に立ちますよね。
実際、マクドナルドさんは、配られるクーポンの種類が、年齢、性別ごとに全部違います。たとえば、子どもさんのいる家庭にはフライドポテト無料券。これで必ずほかのものを一緒に頼んでくれる確率が上がるそうですし、ヘビーユーザーに出すクーポンとライトユーザーに出すクーポンも違う。個別マーケティングを徹底的に行っているんです。
こういうことって、実はよく考えれば、昔の日本の小売店がお客さまの顔を見ながらやっていたことです。八百屋さんが、「お宅、息子さんいたよね、息子さんにこれ食べてもらって」と、大量に仕入れた大根を1本サービスするとか、普通にやっていましたよね。これを、きちんとITで行えるんです。データがトラッキングできるということはそういうことなんです。
【藤平氏】
もう1つ、マクドナルドさんの事例でポイントとなっているのは、店舗側のオペレーションです。あれだけアルバイト店員が激しく入れ替わる中で、お客さまの電子クーポン利用に店舗がちゃんと対応できています。
当社のセブン‐イレブンさんでの導入事例でも、オペレーションに一番気を使いました。どんなに電子ギフトとしてのソリューションがすばらしくても、店舗でうまく扱ってもらえなければ定着しません。“ピッと読んだら終わり”というぐらい、簡単な処理でなければならないんです。その点、一次元バーコードをスキャナを読むというSBギフトの仕組みはわかりやすく、こちらが何もいわなくても、店員さんは一次元バーコードを見ただけで、スキャナを正しく当ててくれます。
お客さまのデータがトラッキングできる点も大きくて、これまではクレジットカード会社やPOSレジシステムを持っている企業しか行えませんでしたが、これは、企業規模の大小を問わず求められるものです。
去年の秋から今年3月まで、経済産業省とともに電子クーポンの実証実験を福岡市で行ったのですが、これは大規模小売店から商店街の商店までさまざまな120の小売店舗が500種類の電子クーポンを配布してお客さまに使ってもらうというものでした。その結果、小売店それぞれに商圏の範囲が異なっていることや、お店によってよく使われる電子クーポンが違うことなど、それまで曖昧にしかわからなかった事実が数多く判明して、データ・トラッキングの有用性が明らかになりました。ここで、商店街の小売店さんには携帯電話を使って一次元バーコードの読み取りを行ってもらったんですが、新しく専用機器を導入する必要がないのでとても喜ばれました。
重要なのは、徹底的にユーザーサイドに立って考えること
──モバイル・マーケティングに確かな効果があることがわかってきましたが、もし、これから始める場合、何か留意する点などはありますか。
【夏野氏】
徹底的にユーザーサイドに立つことだと思います。お客さまにとって、それは簡単であるか、自然であるか。自分がユーザーになったときに魅かれるサービスかどうか。このひと言につきます。よく言っているんですが、迷ったら自分に一番つらいことを平気で言える人に聞け、と。たとえば、自分の奥さん。“こういうことを考えているんだけど”といって、“くだらない”といわれたら、それはダメ。“いいじゃない、それ”と言ってくれたらGo! ジャッジは簡単に下ります(笑)。
──おサイフケータイのときはいかがでしたか。
【夏野氏】
最初はボロボロでした(笑)。操作が面倒くさいとか、ソフトをダウンロードしなければならないとか。
【藤平氏】
当社も、ユーザビリティについては考え抜きました。そして、たどりついたのが、Webベースにして、専用アプリケーションを不要にするということ。買ってきた携帯電話やスマートフォンをそのまま使って、ただサイトにアクセスするだけ。夏野さんがおっしゃったように、シンプルを追求すると、一番わかりやすいものになります。ユーザーはメールで飛んできたURLをクリックしてサイトにアクセスするだけですし、店舗では、表示された一次元バーコードをスキャナで読みさえすれば、後はサーバから操作の指示が出ます。技術を生かしつつ、でも、それに固執することなく、ユーザーの目線に立って、便利なもの、使いやすいものを提供することが大事だと思っています。
──最後に、あらためてモバイル・マーケティングの将来やその効用について、一言いただければ幸いです。
【夏野氏】
小売の現場には、客の側から見ると、まだまだ改善した方がいいと思われることがたくさんあります。私が、そもそもおサイフケータイを発想したきっかけは、妻のサイフがショップカードや会員証でパンパンにふくらんでいるのを見たことでした。年に5、6回しか行かない美容院のカードをいつも持ち歩かなければならない不効率さ。“これらを携帯電話の中に入れられないか”と思ったのです。
まだすべてが実現できたわけではありませんが、そういったことができる環境は従来よりもはるかに整ってきました。スマートフォンであれ、ガラケーであれ、バーコード表示機能などすべてに搭載されています。もう昔ほどリスクを取る必要はありません。私としては、せっかくあるそれらを利用しないでどうするんですか、と申し上げたいですね。それでお客さまが便利になるのであれば、便利になることをやったらいいじゃないですか。チャレンジすることを恐れたり、新しい取り組みをしり込みしているようでは、日本全体がシュリンクする中で生き残っていけません。
経営者マインドで、“リスクをどう分散して”などと理屈をこねまわしているより、一消費者のいうことを聞いた方が商売は、よほどうまくいきます。消費者という原点に立ち返ることが新しいサービスを生み出す秘訣です。
【藤平氏】
まさにそのとおりだと思います。加えて言うと、もうリスクを取る必要もありません。企業としてこういうサービスを提供するとなると、サーバを立てて、システムを開発して、とあれこれ難しく考えられるかもしれません。しかし、当社はこうした環境をクラウドで提供できますから、1店舗あたり月額980円でご利用いただけます。“ちょっと実験的に使ってみよう”ということができるんです。その先、この環境を自社のマーケティング戦略にどう組みこむかは企業それぞれに考えていただく必要はありますが、フィールドのご提供に関しては、全面的に任せていただければと思います。
──今後の展開が楽しみですね。本日はご多忙の中、貴重なお話をいただき誠にありがとうございました。
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