
オムニチャネル戦略とは?そのメリットと事例を紹介
顧客の購買行動がデジタルとリアルを自由に行き来する現代において、チャネル間の垣根を越えた一貫した顧客体験の提供が企業の競争力を左右します。オムニチャネル戦略は、この課題を解決する革新的なアプローチとして注目されています。本記事では基本概念から具体的な導入事例まで、オムニチャネルの全体像を解説します。
目次[非表示]
- 1.オムニチャネルとは何か
- 1.1.マルチチャネルやO2Oとの違い
- 1.2.オムニチャネルの具体例
- 2.オムニチャネルのメリット
- 2.1.顧客体験の質向上
- 2.2.データ収集と分析の強化
- 2.3.リピーターやロイヤルカスタマーの育成
- 3.オムニチャネル導入事例から学ぶ
- 3.1.小売業界のオムニチャネル成功例
- 3.2.飲食業界の事例研究
オムニチャネルとは何か
「オムニチャネル」という言葉は聞いたことがあっても、その正確な意味や類似概念との違いを明確に説明できる方は多くありません。マルチチャネルやO2Oとの違いを含め、オムニチャネルの本質的な特徴と具体的な姿を詳しく解説します。
マルチチャネルやO2Oとの違い
マルチチャネルは複数の販売チャネルを並行して運営する戦略である一方、オムニチャネルはすべてのチャネルが完全に統合され、顧客がどのチャネルを利用しても同一のブランド体験を得られることを目指します。最大の違いは、マルチチャネルがそれぞれ独立したチャネル運営であるのに対し、オムニチャネルはすべてのチャネルをデータ連携・システム統合することにあります。
O2O(Online to Offline)については、オンラインはオフラインへお客さまを送客するための手段でしかありません。例えば、実店舗で使えるオンラインクーポンの配布などが典型例ですが、O2Oはポイントを付与し、実店舗への新規会員の獲得や集客などの「誘導」をメインにしているのに対して、オムニチャネルは顧客の「囲い込み」に重点を置いている点が異なります。また、O2Oは顧客体験の一貫性を担保しないケースが多いのに対し、オムニチャネルはあらゆる顧客接点での一貫した体験提供を重視します。
オムニチャネルの具体例
現代のオムニチャネルは、顧客の購買プロセス全体をシームレスに支援する体験として実現されています。米国で最も進んだ事例として知られる百貨店においては、全米の店舗在庫が一括管理され、目の前に在庫がなくともその場で他店から自宅に配送する注文ができます。
国内では、ユニクロが「UNIQLO IQ」と呼ばれているAIチャットボットを用いた接客サービスが特徴的です。このサービスにより、顧客は気軽にコーディネートを相談し、商品の在庫確認やオンライン購入ができるようになりました。さらに、アプリを通じた特別クーポン提供や店舗受取送料無料化など、複数チャネルの利点を統合した体験を提供しています。
ナイキでは「House of Innovation」を展開し、欲しい商品が見つかったらアプリでバーコードやQRコードを読み取り、アプリ上で商品を選択して試着希望のボタンを押すと、スタッフが試着室までその服を持ってきてくれるサービスを実現しています。
オムニチャネルのメリット
オムニチャネルが注目される理由は、単なるトレンドではありません。顧客体験の向上からデータ活用の強化まで、企業にとって具体的で測定可能なメリットが存在します。ここでは、オムニチャネル導入で得られる主要な効果を体系的に整理します。
顧客体験の質向上
オムニチャネル化を実現できれば顧客にとっての利便性が高まるため、顧客体験 (CX)向上が期待できます。顧客満足度も相関的に上がりやすくなり、自社の商品やサービスに対するイメージもよくなる可能性が高いです。
具体的には、顧客が自分のペースで複数のチャネルを使い分けながら購買プロセスを進められる環境が整うことで、購買に至るまでのストレスが大幅に軽減されます。オンラインで興味を持った商品を店舗に訪問した際に紹介することや、ECサイトでの購買の後押しのために、店舗での試着サービスへとデータ連携するなど、マーケティング領域に止まらない複数の販売チャネルを活用した販売施策・顧客体験が実行できるようになりました。
さらに、チャネル間での情報の一貫性により、顧客は何度も同じ情報を入力する必要がなくなり、よりスムーズで快適な購買体験を享受できるようになります。
データ収集と分析の強化
オムニチャネルではそれぞれのチャネルをシームレスにつなげるため、オンラインとオフラインの両方で顧客の行動に関するデータを収集できます。それらを総合的にしっかり分析することで、顧客理解が深まり販促・マーケティングの施策のアップデートをしやすくなります。
従来のマルチチャネルではチャネルごとに分散していた顧客データが、オムニチャネルでは統合的に管理されることで、顧客の購買行動の全体像を把握することが可能になります。これにより、顧客の嗜好や行動パターンをより深く理解し、パーソナライズされたマーケティング施策の実施が可能となります。
オムニチャネル化を実現するには、あらゆるデータを統合して管理する必要があります。MAツールの活用により、収集したデータを効果的に分析し、顧客セグメンテーションの精度向上や、適切なタイミングでのアプローチが実現できます。
リピーターやロイヤルカスタマーの育成
オムニチャネル化すると、各チャネルで商品の購入を検討している顧客のデータを統合的に管理できるようになります。それぞれに最適なアプローチをかけられるため、顧客との関係性を継続的に深化させることが可能になります。
顧客が複数のチャネルで一貫した体験を重ねることで、ブランドに対する信頼感と愛着が醸成されます。また、顧客の購買履歴や行動データを統合して管理することで、個々の顧客に最適化されたサービスや商品提案が可能となり、リピート購入の促進につながります。
客のリピーター化とファン化、ファンになった顧客が周囲へポジティブな情報発信をすることで顧客の囲い込みがさらに進むことなど、長期的な売上と利益の増大に効果が見込めることが実証されています。こうした口コミ効果により、新規顧客獲得コストの削減と、既存顧客のLTV(生涯価値)向上の両方を実現できます。
オムニチャネル導入事例から学ぶ
理論とメリットを理解したところで、実際のビジネス現場での成功例を見てみましょう。小売業界と飲食業界で実践されている具体的なオムニチャネル施策から、自社への応用可能なノウハウと成功の要因を探っていきます。
小売業界のオムニチャネル成功例
ユニクロのアプリは、2021年には国内で5700万人、グローバルでは1.4億人の会員を抱えるまでに成長しました。また、店舗受取を利用することによって送料を無料にするなど、顧客にとってもメリットが大きく、実店舗への来店も促進されています。
ユニクロの成功要因は、AIを活用したパーソナライゼーションとチャネル間の利便性向上にあります。専用アプリにお買い物アシスタントの「IQ」を導入し、ユーザーはいつでもどこでも、商品選びやサイズ選びを手伝ってもらうことができます。さらに、アプリ限定価格やクーポンの提供により、デジタルチャネルと実店舗の相乗効果を最大化しています。
スターバックスは、顧客体験を向上させるためにアプリと店舗の連携を強化しました。これにより、デジタルツールと物理店舗を統合し、顧客が店舗での購入プロセスを円滑に進められる仕組みを提供しています。モバイルオーダーとピックアップサービスの組み合わせにより、待ち時間の短縮と利便性の向上を実現しています。
飲食業界の事例研究
飲食業界においても、オムニチャネル戦略は地域活性化と顧客体験向上の両面で効果を発揮しています。姫路観光コンベンションビューロー様の事例では、「おいしい姫路の旅キャンペーン」として、姫路の地魚または地酒のいずれかを取り扱う市内の飲食店でご利用いただける「地魚・地酒千円クーポン」を1泊あたり1,000円分配布するキャンペーンを実施しました。
この取り組みでは、WEB予約システムと地域活性化クーポン(自治体向けモバイルクーポンシステム)を連携させることで、宿泊予約から飲食店での利用まで一気通貫した観光体験を提供しています。デジタルクーポンの活用により、利用状況の把握と効果測定が可能となり、地域の飲食店への送客効果を定量的に評価できる仕組みを構築しました。
姫路のブランド食材である「ぼうぜ鯖」の認知度向上と地域経済活性化を図りながら、観光客には手軽で魅力的な地域体験を提供する、win-winの関係を実現した事例として注目されています。このような地域密着型のオムニチャネル戦略は、観光業界における新たなモデルケースとして他地域への展開も期待されています。
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